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大分地方裁判所 平成4年(行ウ)1号 判決

大分県中津市舟町一六一一番地の一

福沢通りスカイマンション一一〇二号

原告

寺中正樹

大分県中津市殿町二丁目一四二五番地二

被告

中津税務署長 坂元昭雄

右指定代理人

白石芳明

安森和義

伊藤大蔵

原尻真二

木庭忠義

尾沢安治郎

福田道博

松永誠

渡邊明

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  原告の請求の趣旨及びその理由は、別紙訴状(写し)のとおりであり、被告のこれに対する反論及び主張は別紙答弁書(写し)のとおりである。

二  原告の請求及び主張は明確ではないが、原告の訴えは、

1  昭和五八年一〇月二六日にした昭和五五年分、昭和五六年分所得税の修正申告に基づく各所得税本税及び昭和五七年分所得税の期限後申告に基づく所得税本税の各課税処分の取消し、

2  右1に係る延滞税の課税処分の取消し、

3  昭和五八年一〇月二八日付けでされた昭和五五年分、昭和五六年分所得税の過少申告加算税及び昭和五七年分所得税の無申告加算税の各賦課決定処分の取消し、をそれぞれ求めるものと解される。

三1  ところで、申告納税方式をとる所得税にあっては、納付すべき税額は、納税者の申告があれば、特に税務署長において更正する場合を除き、その申告によって確定し、納税者は申告に係る税額を納付すべき義務を負担するにいたるのであって(国税通則法一六条一項一号)、申告による課税処分なるものが行われ、またそれによって税額が確定するものではないから、原告が前記二1で求める各課税処分の取消しは、法律上存在し得ない処分の取消しを求めるものであって不適法である。

2  次に、延滞税は、国税につき期限後申告書若しくは修正申告書を提出した場合で、納付すべき国税がある場合に、特別の手続を要しないで法律上当然に成立し、その額が確定するものであるから(同法六〇条、一五条三項八号)、原告が前記二2で求める課税処分の取消しも、法律上存在し得ない処分の取消しを求めるものであって不適法である。

3  なお、原告は、昭和五八年一〇月二六日に修正申告をしていない旨主張するが、仮にそうだとしても、被告の課税処分がないことに変わりはないから、右1、2の結論に消長をきたさない。

4  原告が前記二3で求める過少申告加算税及び無申告加算税の各賦課決定処分の取消しを求める訴えは、適法な異議申立てとそれに対する決定、さらに適法な審査請求とそれに対する裁決を経た後であること、あるいは同法一一五条一項各号に定める事由が存在する場合でなければ提起することができないところ、原告が適法な異議申立て及び審査請求をしたこと又は同条項各号に定める事由が存在すること等右訴えが適法であることを認めるに足りる証拠はない。

5  以上のとおり、原告の本訴えはいずれも不適法であるから、これらを却下する。

(裁判長裁判官 簑田孝行 裁判官 大泉一夫 裁判官 坪井宣幸)

訴状

〒871 大分県中津市舟町1611番1102

原告 寺中正樹

中津市殿町二丁目

被告 中津税務署長

坂元昭雄

請求の趣旨

一、原告の昭和五五、五六、五七年分所得税について被告中津税務署長が昭和五八年一〇月二六日になした修正申告本税と延滞税及び同年一一月二八日になした過少申告加算税(いずれも五五、五六年分)並びに無申告加算税(五七年分)を賦課する旨の各決定を取り消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

請求の原因

一、原告は開業医をしていたが昭和五五、五六年分の所得税について原告が修正申告をしたとして被告から修正申告本税と延滞税及び過少申告加算税並びに昭和五七年分の所得税について無申告加算税をそれぞれ賦課された。

二、原告は右のような修正申告をした覚えはないので国税不服審理署に審査請求をしたが、この請求は棄却された。

三、よって請求の趣旨記載のとおり各賦課決定の取消を求める。

平成四年一月一七日 右原告 寺中正樹

大分地方裁判所 御中

答弁書

平成四年四月九日

〒八七〇 大分市城崎町二丁目三番二一号 大分地方法務局訴務部門

上席訟務官 白石芳明

訟務官 安森和義

訟務官 伊藤大蔵

法務事務官 原尻真二

〒八六二 熊本市二の丸一番二号 熊本国税局課税部

主任国税訟務官 二羽泰昌

国税訟務官 木庭忠義

訟務官付主査 尾沢安治郎

訟務官付主査 福田道博

所得税課審係長 鈴木譲

大分地方裁判所 御中

一 請求の趣旨に対する本案前の答弁

本件訴えを却下する

訴訟費用は原告の負担とする

その判決を求める。

二 答弁の理由

1 原告の訴えは

(一) 昭和五五年分、昭和五六年分所得税の修正申告に基づく各所得税本税及び昭和五七年分の期限後申告に基づく所得税本税の各課税処分の取消し

(二) 昭和五五年分、昭和五六年分所得税の過少申告加算税及び昭和五七年分の無申告加算税の各賦課決定処分の取消し

(三) 右(一)に係る延滞税の賦課決定処分の取消し

を求めるものと考えれる。

2 ところで、申告納税方式をとる所得税にあっては、納付すべき税額は、納税者の申告があれば、特に税務署長において更正をする場合を除き、その申告によって確定し、納税者は申告に係る税額を納付すべき義務を負担するに至るのである。すなわち申告納税方式の下においては、申告による課税処分なるものが行われるものではなく、またそれによって税額が確定されるというわけではないのである。

したがって、前項(一)の「修正申告及び期限後申告に基づく課税処分の取消し」を求める訴えは、法律上存在し得ない処分の取消しを求めるものであって、不適法である(最高裁昭和四二年五月二六日第二小法廷判決・訟務月報一三巻八号九九〇ページ)。

さらに、延滞税は国税を法定納期限までに納付しない場合に課される附帯税であり(国税通則法六〇条)、その納付義務は、本税について納期限を徒過したときに、特別の手続を要しないで法律上当然に成立発生し、その額も確定するものであるから、前項(三)の「延滞税の賦課決定処分の取り消し」を求める訴えもまた、対象なる処分が存在しないもので不適法である。

3 第一項(二)の「過少申告加算税及び無申告加算税の各賦課決定処分の取消し」を求める訴えは、適法な異議申立て及び審査請求を経ることなく提起されたものであるから、不適法な訴えとして却下されるべきである。

国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができない(国税通則法一一五条一項)。

ところで、本件過少申告加算税及び無申告加算税の各賦課決定処分はいずれも昭和五八年一〇月二八日付けをもってなされ、当該処分の通知書は、同月二九日ころに原告に到着した。しかるに、原告は、右処分に対し、国税通則法七七条一項に定める二か月の異議申立期間を大きく徒過した平成二年三月二八日に至って、初めて異議申立てをなしたものであり、これが不適法であることは明らかである。

よって、当時の異議審理庁である福岡税務署長は、同年六月二二日付けをもって右異議申立てを却下する旨の決定をした。これに対し、原告は、平成二年七月二〇日、国税不服審判所長に対し審査請求をなしたが、同所長も、原告の審査請求は不適法なものとして、平成三年一〇月七日付けをもって却下する旨の裁決をした。

したがって、本件訴えは、適法な異議申立て及び審査請求を経ておらず、不適法であることが明らかである。

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